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【名言公案VOL.2】空海展/奈良国立博物館 ”空海 KŪKAI ―密教のルーツとマンダラ世界”で弘法大師の仕事術を再考する〜

本年は弘法大師・空海の生誕1250年の記念特別展として奈良国立博物館で”空海展〜空海 KŪKAI ―密教のルーツとマンダラ世界〜”が催されています。私どもも早速行って参りました。

 

 

空海展に触れて

弘法大師・空海といえば、日本真言密教の祖として知られています。

平安時代、遣唐使船に乗ってたどり着いた唐より青龍寺において恵果大阿闍梨より伝法された密教の極意を日本に持ち帰りその教えを世に弘められ、日本仏教史だけではなく日本文化に大きな影響を与えています。

今回の空海展は、奈良国立博物館の井上洋一館長をして”かつてない”と言わしめるほどで、実際に、230年ぶり修理後初公開となる空海が直接制作に関わったといわれ現存最古の曼荼羅である神護寺の国宝・高雄曼荼羅や空海の自筆であるこれも国宝・聾瞽指帰ろうこしいきなど、各々を観るだけでもめったとできないものがなんと奈良国立博物館で一堂に会するわけでこれほど貴重な機会もありません。

また、これまでは絵画と仏像などはジャンルが異なるため別々に展示されてきたことはあったものの、本展では立体曼荼羅としてその世界観を体験できるように展示物が配置されて、より空海が伝えようとした宇宙観をより五感で感じられるような空間づくりがなされているとのことですがこのあたりは会場まで足を運んで体験してよかったところ。

空海の息づかいを感じるほどの直接の仕事をここまでひとまとめに観れるのは生きているうちに幾度あるのか?と考えるとまさにかつてない圧巻の企画だと思います。

さて、今回の名言考案でご紹介させていただく言葉はこちら。

 

密蔵深玄みつぞうしんげんにして翰墨かんぼくがたし。さら図画とがかりさとらざるに開示かいじす。/請来目録」

密教は深遠なもので、文字では全てを伝えられない。そこで図や絵を用いて、悟らない人に開き示すのだ/空海展公式図録の訳文

 

コンセプトとビジュアルストーリーテリングの両立

曼荼羅はビジュアルストーリーテリング

国宝、重要文化財と目白押しの展示品があるなか、最初に目に飛び込んできたのは吊るしののぼりに書かれていたこの言葉です。弘法大師空海が持ち帰ったものはさまざまですが、その中でも有名なのは密教の世界観を図絵を用いて表した両界曼荼羅図でしょう。

一民間事業経営者として私がこの言葉に触れて改めて思ったのが、コンセプトとビジュアルストーリーテリングの重要性です。ビジュアルストーリーテリングとは、絵本に始まり、アニメ、映画など視聴覚で物語やメッセージを伝えていく手法のことです。

動画文化が普及した現代において、このビジュアルストーリーテリングの技術は事業者というのはお店を営業する、商品をつくり、販売するということと同時に付加価値を生むために軽視できません。

複数の同業他社がある中で顧客がなぜあなたの会社の商品を選ぶ必要があるのか?あるいは社会にとってその企業が欠かせない理由というものをメッセージとして伝えることができるかどうかで経営の勝敗が決まるといっても過言ではありません。

実際、ちゃんとコンセプトがあってそれをビジュアルストーリーテリングの技術を駆使してメッセージを伝えることができている企業や団体はマーケティングにおける勝者にもなっています。

 

さて、これは私どものひとつの解釈に過ぎませんが、ある見方をすれば空海の持ち帰った両界曼荼羅の世界観はひとことでいえばビジュアルストーリーテリングだと思っています。

空海はそれまでの日本の仏教が経典重視で煩瑣で小難しくなりがちだったところに、慈悲の世界観を放射状に展開する胎蔵界曼荼羅と、智慧の世界観を表すビジュアルストーリーテリング形式で展開する金剛界曼荼羅によって「目で見て一目で分かる」ようにした、と考えるとしっくりくるのです。

宇宙のはたらきがマインドマップのように展開、帰納する胎蔵界はコンセプト(理念)の設計の際に必要な思考ツールの役割も果たせるし、絵物語のように悟りの階梯を表す金剛界はそのコンセプトを人それぞれの器量に応じて、あるいは世のトレンドに応じてどう伝えるかのストーリーテリング考える思考ツールとも見えるからです。

思考の型としての曼荼羅

あるいは、空海の両界曼荼羅を思考の型として理念を設計したりその理念を物語形式で図絵を用いて映像化することで情報の伝わる精度、速度が飛躍的に高まるということを示唆しているようにも見えるのです。

メジャーリーガーの大谷翔平氏が学生時代に目標設定シートに使用したのはこの曼荼羅をモチーフに応用したマンダラチャートと言われていますが、情報が図絵で整理できる思考ツールとして活用しやすかったからでしょう。

やはり、情報の把握、伝達の効果性を考えるならば子どもに絵本物語を読み聞かせするように図絵を用いることは欠かせません。

また現在、映画「オッペンハイマー」が話題となっておりますが、いつも難解な科学テーマにチャレンジするクリストファーノーラン監督の作品も現代物理学の学術論ではなくて映画作品だからなんとなく云わんとすることが見えてくる、と言うようなことがあると思います。

空海が唐から密教の教えを持ち帰るまでは、もちろん、個々に心象を映像化するということの重要性は気づいていた人はいても、ここまで体系的にそしてビジュアルとしてまとまった「哲学」として世に弘めた人もいなかったわけで、それまで民衆にとっては何もないところにいきなり当時世界最先端の唐の文化の結晶とも言える両界曼荼羅の図絵がやってきたことは衝撃だったことが目に浮かびます。

ですので、「もし、空海が今生きていたらどんな仕事をするのか?」という視点で物事を考えてみるのも面白いかもしれません。

まだ普及したとはいえないことも加味してVRゲームの世界において、NintendoSwitchのゼルダの伝説シリーズのように冒険の旅を新しい拡張世界で体験する。ゲームの元型であるゼルダ姫を救うというミッションの中で失った記憶を取り戻したり、人類普遍の人生で大切なことを五感を通じてゲームの世界観に没入できる体験。Nintendoならすでに開発に着手しているかもしれませんね。

空海の書を原文そのまま読んで解釈して今に活かすのは難しいとは思いますが、それでも私どもが弘法大師・空海の仕事として最も取りいれたいエッセンスがあるとしたら、企業(事業体)が社会に果たすべき使命としての理念を確立すること、そしてそれを物語として提示して活かせるのではないかということであり、それは前述の空海の曼荼羅へのアプローチに尽きるのではないか、と思うのです。

空海の仕事術を学ぶ資料

生誕1250年記念 特別展「空海 KŪKAI ― 密教のルーツとマンダラ世界」公式図録

さて、空海展の話に戻りますが、やはり遠方の方はなかなか足を運ぶのが難しいという場合もあることでしょう。この場合は本展の図録も販売されていますのでご参考いただけたらと思います。

実際、私どもがいったのはGWでしたので会場は混雑しており、空海の直筆なども観れて直接の仕事の熱気みたいなものは肌で感じることはできましたが、それでもなかなかひとつひとつの資料をゆっくり観ることができませんでした。後でしっかり振り返りたいなと思っていましたが、この図録は展示されていたものを詳しく紹介されていますので本展のテーマである密教のルーツを始め空海の仕事を研究するにこの上ないものだと思いますので永久保存版として書棚に大切に保管したいと思っています。

図録「空海」

図録「空海」

空海名言辞典(付・現代語訳)/高野山出版社

あともうひとつ、この本をご紹介しておきます。弊社業務の高野山合宿研修の後に山内の書店で購入したものですが、一般の書店にはまず流通していない本です。

多分、真言宗の僧侶とか空海のコアなファンしか買わないだろうと思われるくらい「売れる」を狙った本ではないことはいわずもがな、内容はというと空海の著作から名言を分類、必要に応じて語句を検索できるようになっている辞典です。

空海の残した著作を全部調べたい方は空海全集という全8冊の分厚い本がありますが、揃えるに重たく、読み解くのに難くちょっとハードルが高いです。しかしながら、本辞典は現代の仕事にも通じる重要なエッセンスだけを抽出したような側面もありますので、入門者でも上級者でも幅広く使用できる携帯サイズのこちらの方が実用的かと思いご紹介させていただきました。

なお、本書は空海の原文はもちろん、現代語訳までついています。この、辞典を見るに文芸の章では作詩に作文、書道に筆法と宗教哲学だけではなく空海の仕事に対する具体的な考え方にまで触れられることができます。

ひとつだけこちらでもご紹介しておきましょう。

詩は物色の意を兼ねて下るを好しと為す 若し物色有りて意興無ければ

巧と雖もまた処として之を用うる無し(文鏡秘府論南/文筆眼心抄)

訳:詩は、風物に情景を添えて描写することが大切である。風景だけで作者の心情がなければ、表現が巧みであっても詩にはならない。(同辞典訳)

WithUpの業務について

既存業務:企業経営者様向け理念研修会

さて、私どもの話に変わりますが、和歌山県にはその空海開創の修禅の根本道場・高野山があり、同県に所在地のある私どもとしてはこの静謐な場にて企業経営者様向けの理念研修を行っております。(宗教から距離を置いたマインドフルネスを兼ねたワークショップ)

密教の深遠さや悟りの世界というのは私どもの理解を超えている範疇ですので差し控えますが、かの経営の神様・松下幸之助翁は高野山の根本道場である根本大搭を仰ぎ見ることのできる西禅院にて自ら私財を投じて茶室を建て、そこを書斎にしていたほどであり、経営のあり方や将来像を熟考するにはロケーションとしてこの上ない場ではないかと思い、この場を候補地のひとつとさせていただいております。

理念研修では経営者さんや会社の幹部、従業員の方々などコアなメンバーと膝をつき合わせながら対話を通じて経営のあり方について考えていることを言葉にしたり、文字に書いたりしてひたすら理念データとして引き出すことに専念します。

暗黙知である個々の想いを形式知である理念に昇華させ、図や絵などを通じて心象化を図るこの作業は今でいうナレッジマネジメントに該当する概念かもしれませんが、弘法大師空海は伝えたいメッセージ(仏教の根本理念、宇宙の真理)を一般民衆に分かりやすく伝えるために曼荼羅図を用いたというのは、時代を超えた仕事の本質としてそのエッセンスを取りいれたいとは思うものです。

面白いことに、研修を終えるころに経営者様の人生理念や企業の理念というものが体系的にまとまってくるとそれはまるで曼荼羅図のようなもの。

そこで始めて弘法大師・空海の持ち帰った密教の教えや曼荼羅図の深遠さに気づくと同時に、どこかこれらが身近なものになったという声も聴かせていただくことがありますが、私自身も回を重ねることでより理解が深まるような気がしています。

新規事業:映像制作事業(VST…ビジュアルストーリーテリング)の開発

ここで少し発表になりますが、弊社は今、企業・団体様向けの映画・映像制作事業を準備中です。こちらは商品の本質的な価値を顧客に届けたり、企業の持つ理念をメッセージとして社会に届けるためにビジュアルストーリーテリングは極めて重要であり、これも弘法大師・空海のもたらした両界曼荼羅の考え方をヒントにさせていただきながら開発しています。

言語化、心象化して体系化した理念は物語として映像化したときに初めて物語として点と点がつながりメッセージとして活きてきます。

弊社の既存業務としてこれまで理念設定の研修を行ってまいりましたが、それに加え、ビジュアルストーリーテリングまでを一貫して手がけお客様への貢献価値をより高いものにしたい、ということから、開発を試みています。

近年はマインドフルネス、リトリート、ワーケーションという言葉が広まりつつありますが、不確かな情報が溢れる現代社会において意志決定の責任を伴う経営者の皆様におかれましては今間まで以上に内省の時間の価値が高まっているように思います。既存業務の理念構築合宿研修においては、弘法大師空海開創の高野山が弊社所在地である和歌山県にあり、宿坊施設が整っていることもあり、地の利を活かしやすいという点でこの上ない環境になっています。

また、動画文化の普及した現代においては果たすべき社会的な責任を明記した理念を言語化すると同時に、それを顧客や社会に映像化して届けるということは両界曼荼羅が不二のものであるのと同時に理念とビジュアルストーリーテリングを確立することも不可欠であると感じます。

ビジュアルストーリーテリングの構築過程を体験していただくことでこれまで客観的に認識できていなかった自社の本質的な可能性や新たな可能性を見出す一助になれればと思います。

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村上 寛和

株式会社WithUp代表取締役 研修総合ディレクター

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